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Bリーグの怪我は本当に増えたのか。「日本は笛が重いから怪我が多い」説をデータで検証する

2025-26スタッツ解説

「また怪我人か」。Bリーグを追っていると、そう感じる場面が確かに増えました。そして理由としてよく語られるのが、「日本は笛が重いから」という説明です。

ここでいう**「笛が重い」とは、接触があっても審判がファウルを取らず、プレーを続行させる傾向**を指します。それによってラフなプレーが許容され、怪我が増える。そういう筋書きです。

本当にそうなのか、数字で確かめます。使うのはりそなグループ B.LEAGUE 2025-26 SEASON Injury Report(2026年8月18日公開・全76ページ)とその過去3季分、そして各リーグ公式のボックススコアです。

対象はB1に絞ります。悪化が起きたのはB1で、B2は同じ期間ほぼ横ばいだったためです。ただしレポートが受傷メカニズムなど一部の内訳をB1・B2合計でしか公表していないので、そこは**(B1・B2合計)**と明記します。

先に結論

答えは2段階になります。

まず、B1の怪我は増え、そして重くなりました。 試合中の発生率は前年比17.1%増。Player Availabilityは91.8%から87.7%。重症(29日以上離脱)の割合は19.0%から26.6%に上がりました。

そのうえで、「笛が重いから」という説明を支える数字は見つかりませんでした。 B1の審判はNBAより多くファウルを吹いています。今季の笛は、前季よりむしろわずかに厳しくなりました。そして増えた怪我の多くは、接触ではなく非接触で起きたものでした。

ただし**「日本の笛は重くない」と証明したわけではありません**。この記事で数えられるのは吹かれたファウルだけで、吹かれなかった危険な接触は、どこにも記録が残らないからです。この記事が言えるのは、「重い笛 → ラフな接触 → 2025-26の怪我増加」という説明が、データと噛み合っていないというところまでです。

1. B1の怪我は本当に悪化した

Bリーグは2022-23シーズンから、同じ定義でB1・B2全クラブの外傷・障害を集計しています。定義は「練習または試合で発生し、1回以上の練習または試合を離脱したもの」。記録するのは各クラブのアスレティックトレーナーです。

2022-23
8,493日
2023-24
7,855日
2024-25
6,592日
2025-26
10,970日
B1の外傷・障害による総離脱日数。出典: B.LEAGUE Injury Report 2022-23〜2025-26

3シーズン連続で減っていたものが、今季いきなり6割以上増えました。

ただしこの総離脱日数は単純な合計値です。 B1は今季24クラブから26クラブに増え、調査対象選手も364人から412人になりました。規模が広がれば合計値は当然増えます。この数字だけで「悪化した」と言うのは乱暴です。

そこで、規模に左右されない指標を見ます。

B12022-232023-242024-252025-26
試合中の発生率
(件/1,000 athlete-hours)
49.6547.7243.1950.56(+17.1%)
Player Availability89.2%90.2%91.8%87.7%(−4.1pt)
severe(29日以上離脱)の割合——19.0%26.6%

発生率 は、件数を「選手が実際にプレーした時間」で割った値です。1,000 athlete-hours は「選手1人が1時間プレーする」を1,000単位分という意味で、曝露量で補正されています。

Player Availability(選手稼働率) は、全選手の調査期間の日数合計に対して、怪我なくプレーできた日数が何%かです。こちらは登録日数で補正されています。B1は3年かけて89.2%から91.8%まで改善していました。それが今季87.7%です。

どちらも規模拡大の影響を受けない指標で、そろって悪化しています。しかも重症の割合が19.0%から26.6%に上がっており、増えたのは数だけではありません。

落ち込みの中心は外国籍選手でした。

B1の区分2024-252025-26差
日本人92.2%88.5%−3.7pt
外国籍91.8%83.9%−7.9pt
B1全体91.8%87.7%−4.1pt

83.9%は、シーズンのおよそ6分の1を怪我で使えなかったという意味です。B1の膝の靱帯断裂は3件から8件に増え(今季の8件はすべてB1)、総離脱日数は2,062日。大腿の肉ばなれによる離脱も、B1の外国籍選手で171日から438日へ増えています。

いつ怪我をしたのかも見ておきます。レポートによると、まだ怪我をしていない外国籍選手の割合が、開幕から2〜3ヶ月あたりで急に落ちています。つまりこの時期に、新しく怪我をする選手が一気に増えました。来日直後でも開幕直後でもありません。レポートはこれを2025-26の特徴として挙げています。

2. では、B1は極端に笛が重いのか

ここから本題です。

まず注意を1つ。ファウル数はあくまで「宣告された数」であって、「起きた接触の量」ではありません。プレースタイル、ペース、ペイントへの攻め方でも変わります。なのでこれは審判基準そのものの比較ではなく、結果としてどれだけ笛が鳴っているかの比較です。

試合あたりで比べると40分制と48分制で条件が違うので、100ポゼッションあたりに揃えます。

ポゼッション = FGA − オフェンスリバウンド + ターンオーバー + 0.44 × FTA

集計は筆者が行いました。B1はPulseketのデータベース(2025-26レギュラーシーズン全780試合)、ユーロリーグとユーロカップはEuroLeague Basketball公式のボックススコア全試合分(レギュラーシーズン380試合/180試合)、NBAはESPNのチームスタッツ(30球団×82試合)。すべて2025-26のレギュラーシーズンのみで、プレーオフは除いています。

ユーロカップ
1ファウル = 3.3ポゼッション
29.98
ユーロリーグ
1ファウル = 3.5ポゼッション
28.29
B1
1ファウル = 3.9ポゼッション
25.80
NBA
1ファウル = 5.1ポゼッション
19.51
100ポゼッションあたりのパーソナルファウル数(2025-26レギュラーシーズン)。各リーグ公式ボックススコアから筆者集計

言い換えると、B1では約4ポゼッションに1回ファウルが吹かれています。

リーグ(2025-26 RS)試合数PF/試合PF/100ポゼ1ファウルあたりFTA/FGA
ユーロカップ18023.0529.983.34ポゼ0.367
ユーロリーグ38021.0128.293.54ポゼ0.308
B178019.6425.803.88ポゼ0.269
NBA1,23019.8719.515.13ポゼ0.264

同じ40分制のユーロリーグ・ユーロカップと比べると、B1はやや笛が少なめです。一方でNBAとは差がはっきりしていて、NBAは5.1ポゼッションに1回。B1の方が3割ほど多く吹いています。 シュート1本あたりどれだけフリースローをもらえるか(FTA/FGA)も、B1の0.269とNBAの0.264はほぼ同じでした。

ただし、ここでは決着しません

ここまでで分かるのは、B1の審判はNBAより多くファウルを吹いていて、ユーロリーグ系よりやや少ない、というところまでです。少なくとも「世界的に見て極端に吹かないリーグ」という位置ではありません。

これで納得しない人がいるはずです。「問題は数じゃない。危険な接触だけが日本では流されているんだ」と。これはもっともな反論で、ボックススコアでは否定できません。吹かれなかったファウルは、どこにも記録が残らないからです。

そこで次は、審判の側ではなく実際に起きた怪我の中身を見ます。もし「重い笛 → ラフな接触 → 怪我」という説明が主因なら、怪我の側にも接触が増えた痕跡が残るはずです。

3. 怪我の側に、接触が増えた痕跡はあるか

仮説を明示します。

重い笛 → 危険な接触が流される → 接触による怪我が増える

これが主因なら、少なくとも次のどれかが観測されるはずです。3つ順に確かめます。

チェック1:今季、笛はさらに重くなったか → いいえ

怪我が悪化したのは2025-26です。その季に笛が緩んだのなら、話はつながります。

B1 レギュラーシーズン2024-252025-26
PF/100ポゼ25.0825.80
1ファウルあたり3.99ポゼ3.88ポゼ
FTA/FGA0.2600.269

わずかに増えています。 差が小さいので「厳しくなった」と言い切るほどではありませんが、動いた向きは仮説と逆です。

チェック2:接触による怪我は増えたか → リーグ全体ではむしろ減りました

直達外力(他の選手と接触)
2024-25は44.0%(−5.1pt)
38.9%
非接触
2024-25は29.9%(+2.1pt)
32.0%
介達外力(他の選手と接触)
9.3%
オーバーユース
2024-25は4.4%(+4.1pt)
8.5%
物との接触
床・ゴール支柱など
6.2%
不明
4.7%
受傷メカニズム別の構成比(2025-26・B1+B2合計の全591件)。出典: B.LEAGUE Injury Report 表21

接触由来が5.1ポイント減り、非接触とオーバーユースが増えました。発症の様式で見ても、「急性・突発性の発症」が84.0%から77.3%に減り、「負荷の反復に起因する発症」が14.3%から20.3%に増えています。

ここで正直に書いておきます。この内訳はB1単独では公表されておらず、B1・B2合計の数字です。 だからこれだけでB1の変化を断定することはできません。言えるのは「リーグ全体で見ると、接触による怪我の割合はむしろ下がった」というところまでです。

補強材料として、審判がいない場所での怪我も見ておきます。練習中の怪我は89件から133件へ、試合中の怪我(393件→458件)より大きな伸び方をしました(いずれもB1・B2合計)。ただしレポート自身が練習時間データの欠損クラブを除外して集計していることもあり、練習の数字は試合より不確かさが残ります。参考程度に留めます。

チェック3:増えた怪我は接触型だったか → 多くは非接触で起きていました

今季目立って増えた3つを見ます(B1・B2合計)。

  • 大腿・下腿の肉ばなれ/筋断裂 73件(下腿は27件→36件で+33.3%)。このうち89.0%が非接触。練習中の発生割合が18.8%から35.6%へ上昇。41.1%がsevere。
  • 膝の靱帯断裂。B1で3件から8件に増え、今季の8件はすべてB1。診断コードのある7件は7件すべてが前十字靭帯(ACL)、8件中5件が非接触。1件あたりの重さを示すinjury burdenは385.94で、全種類中最大でした。
  • 足関節捻挫(靭帯損傷)105件(83件から+26.5%)。総離脱日数1,401日。

3つめの足関節捻挫は、接触で起きることが多いタイプです。ここだけは笛の話と関係しそうに見えます。ところが中身を見ると、「直達外力(他選手との接触)」の割合は62.7%から54.3%に下がり、「非接触」は14.5%から20.0%に上がっています。練習中の発生割合も16.9%から26.7%に上昇。足関節捻挫は件数こそ増えましたが、増えたのは非接触で起きたケースの方でした。

判定

測れる3方向を見ても、同じ方向の証拠が出てきませんでした。

今季の笛はむしろ少し厳しくなった。接触による怪我の割合は下がった。そして増えた怪我の多くは、誰にも触られていない場面で起きている。

もちろん、「日本では危険な接触だけが見逃されている」という可能性までは否定できません。全試合の映像をコーディングしない限り、それは測れないからです。ただし、それが2025-26の怪我増加の主因なら、結果として接触由来の怪我が増える、あるいは接触型の損傷が増える、といった痕跡が期待されます。今回確認できた公開データでは、その痕跡が見つかりませんでした。

4. では何が怪しいのか

ここは短く書きます。今回の問いではないからです。

リーグ自身が警戒しているのは始動期の負荷です。開幕前の練習における発生率は1,000時間あたり5.30件で、レギュラーシーズン中の練習(2.35件)の2倍以上でした。レポートは「始動・入国直後の2週間以内に発生している外傷・障害の半数は肉ばなれ・筋膜炎・筋痙攣などの筋系損傷」とも書いています。

もうひとつは負荷の集中です。日本人選手のうち平均20分以上出場しているのは19.4%、外国籍選手は86.2%。長い出場時間を外国籍選手が背負っていて、その選手群のPlayer Availabilityが83.9%まで落ちました。

ただし、どちらも因果を証明するものではありません。特に後者には、長くコートにいる選手はそれだけ怪我をする機会も多い、という当たり前の話が混ざっています。現時点で言えるのは、「笛」よりコンディショニングや負荷管理の方がデータとの整合性が高い、というところまでです。

結論

B1で怪我による離脱が大きく悪化したことは、数字ではっきり確認できます。試合中の発生率は前年比17.1%増、Player Availabilityは91.8%から87.7%、重症の割合は19.0%から26.6%。規模拡大では説明できない指標が、そろって悪化しました。

一方で、「日本は笛が重く、ラフな接触を許すため怪我が増えている」という説明は、今回確認したデータからは支持されませんでした。B1のファウルコールはNBAより明確に多く、怪我が悪化した2025-26に笛がさらに重くなった形跡もありません。そしてB1・B2を合わせた受傷メカニズムを見る限り、接触由来の割合は増えておらず、非接触・オーバーユース側が増えています。

「日本の笛が重くない」と証明したわけではありません。 吹かれなかった接触は測れないからです。言えるのは、「ラフな接触が増えたからB1の怪我が増えた」という筋書きを裏づける数字が、公開データの中に見当たらない、ということです。

今見えている数字だけなら、審判基準よりコンディショニングや負荷管理を疑う方が整合的です。ただし、そこから先の因果はまだ証明できません。

この記事で検証できなかったこと

  • 吹かれなかった接触の量と強さ。 トラッキングデータや全試合の映像コーディングがないため、ファウル数は「宣告された数」の代理でしかありません。審判基準そのもの(判定の一貫性や厳しさ)を測る公開データもありません。
  • B1単独の受傷メカニズム。 レポートはB1・B2合計でしか公表していません。本稿の第3章チェック2・3は、この制約の上に立っています。
  • 初来日外国籍選手の来日前と来日後の稼働率の比較。 来日前リーグでの欠場理由を全選手分そろえられる公開データがなく、数人だけで語ると都合のいい例集めになるため実施していません。
  • Bリーグと海外リーグの怪我の多さの比較。 NBAの研究は「試合を欠場した怪我」に限った発生率、Bリーグは「練習または試合を1回以上離脱した怪我」で、網の広さが違います。欧州の研究は1クラブ61選手のもので、離脱を伴わない怪我も含みます。数字を並べて順位をつけられる比較にならないため扱っていません。
  • 日程の密度・年齢構成・移動距離・クラブ数増加の影響。 B1は試合の40.1%が連戦2日目(NBAは約17.6%)ですが、この割合は2024-25も2025-26も同じで、今季の悪化の説明にはなりません。ほかも単独では今季の変化を説明できないか、データがないため扱っていません。

出典