Bリーグの笛は重いのか。NBA・ユーロリーグ・EASLと2,432試合で徹底検証してみた
「Bリーグは笛が重い」。接触があってもファウルを取らない、国際試合とは基準が違う。長く語られてきた説です。
この説がどれくらい広く共有されているかは、リーグ側の対応から逆算できます。B.LEAGUEは2024-25シーズン、審判への誹謗中傷が危害予告に及んだことを受けて公式に対応を発表しました。審判のストレス値は選手の2倍を超えるという報道もあります。「審判がおかしい」は、無視できる規模の話ではありません。
「笛が重い」の4つの意味と、この記事で扱う範囲
「笛が重い」という言葉には、少なくとも4つの意味が混ざっています。この記事で扱えるのは2つだけです。
| 意味 | 扱い | |
|---|---|---|
| 1 | 通常の接触をファウルとして取らない | 検証する(記事の大半) |
| 2 | シュート時の接触を取らない | できない。ユーロリーグとEASLのプレー・バイ・プレーにシューティングファウルの区別がなく、4リーグで揃えられない |
| 3 | 危険な接触をアンスポーツマンライクにしない | 検証する(記事の後半) |
| 4 | 試合によって基準が変わる | 参考値まで。1試合3人の審判のうち誰が吹いたかが記録されておらず、審判個人の効果までは分離できない |
対象は2025-26シーズンの4リーグ、合計2,432試合。B1(780試合)、ユーロリーグ(380試合)、EASL(42試合)、NBA(1,230試合)。すべてレギュラーシーズンのみです。
この記事の進み方
いきなり正しい数字は出ません。 誰でも思いつく「1試合あたりのファウル数」から始めて、比較の邪魔になっているものを1つずつ取り除いていきます。
| 段階 | 取り除くノイズ |
|---|---|
| ① 1試合あたりのファウル数 | (何も取り除いていない状態) |
| ② 100ポゼッションあたりにする | 試合のペースの差 |
| ③ 守備ファウルだけに絞る | オフェンスファウルやテクニカルの混入 |
| ④ ペイントへの攻撃機会で割る | ゴール下をどれだけ攻めるかの差 |
| ⑤ 第4クォーターを外す | 終盤の意図的なファウル |
| ⑥ 同じクラブを国内と国際大会で比べる | チームの実力・スタイルの差 |
段階ごとの数字を先に一覧にしておきます。同じ問いに対する答えが、どう動いていくかを見てください。
| ユーロリーグ | B1 | EASL | NBA | |
|---|---|---|---|---|
| ① ファウル/試合 | 21.01 | 19.57 | 18.58 | 19.85 |
| ② /100ポゼッション | 28.28 | 25.70 | 25.02 | 19.44 |
| ③ 守備ファウルのみ | 25.26 | 23.94 | 22.98 | 17.95 |
| ④ /ペイント攻撃機会(千本) | 601.0 | 579.4 | 536.3 | 428.2 |
| ⑤ Q1〜Q3のみ | — | 553.8 | — | 407.4 |
①だけがB1を最下位付近に置き、②以降はB1が2位で安定します。 生のファウル数は捨てるべき数字で、④が答えに近い、ということです。以下、1段ずつ何をしているかを見ていきます。
① 1試合あたりのファウル数
| ファウル/試合 | |
|---|---|
| ユーロリーグ | 21.01 |
| NBA | 19.85 |
| B1 | 19.57 |
| EASL | 18.58 |
この比較では、B1はユーロリーグとNBAより笛が重く、EASLより笛が吹かれている、という結論になります。
ですがこの数字は使えません。ファウルの数はこうなっているからです。
ファウル数 = 攻撃の量と質 × 笛の鳴りやすさ
NBAはB1より35%多くペイントを攻めています(1試合42.7本対31.5本)。攻めている量が違うのに、出てきたファウルの数だけを比べても意味がありません。
② ペースの差を取り除く
試合のテンポが違えば、攻撃の回数そのものが違います。100ポゼッションあたりに直します。
| ファウル/100ポゼッション | B1との差 | |
|---|---|---|
| ユーロリーグ | 28.28 | B1が9.1%少ない |
| B1 | 25.70 | — |
| EASL | 25.02 | B1が2.7%多い |
| NBA | 19.44 | B1が32.2%多い |
この比較では、B1はユーロリーグより笛が重く、EASLとほぼ同じ、NBAより明確に笛が吹かれている、という結論になります。
①から順位が変わりました。B1のポゼッション数は1試合76.2、NBAは101.8。NBAの方が1.3倍多く攻めていたので、ペースを揃えるとB1の方が多く吹かれていることになります。
ここで正直に書きます。ユーロリーグだけを相手にすれば「B1の方がやや吹かれない」は事実です。 この9.1%という数字は隠しません。次の段階でこの差の中身を見ます。
③ ファウルの種類を揃える
ここまでの「ファウル」には、守備側の接触ファウルだけでなく、オフェンスファウル、テクニカル、アンスポーツマンライクが混ざっています。**知りたいのは「通常の守備接触を取るか」**なので、守備側のパーソナルファウルだけに絞ります。
| 守備ファウル/100ポゼッション | B1との差 | |
|---|---|---|
| ユーロリーグ | 25.26 | B1が5.2%少ない |
| B1 | 23.94 | — |
| EASL | 22.98 | B1が4.2%多い |
| NBA | 17.95 | B1が33.4%多い |
この比較では、B1はユーロリーグよりやや笛が重く、EASLより吹かれ、NBAより大幅に吹かれている、という結論になります。
②で9.1%あったユーロリーグとの差が、5.2%まで縮みました。 ユーロリーグはオフェンスファウルを多く取るリーグで(全ファウルの8.28%に対しB1は5.69%)、その分が②の差に乗っていたからです。混ぜ物を外すと差が小さくなりました。
④ 攻め方の差を取り除く
ペースを揃えても、まだ「どこを攻めるか」の差が残っています。3Pばかり打つチームと、ゴール下に突っ込むチームでは、接触が起きる回数が違うからです。
そこで分母を、接触が生じやすい攻撃機会の代理であるペイント内のシュート試投に変えます。これは接触の回数ではありません。 接触の回数も強さも、どのリーグも記録していません。あくまで「ペイントを攻めた回数」です。
判定は座標で統一しました。B1は0〜100のコート座標、ユーロリーグはリング原点のcm、NBAはリング原点のフィート。それぞれのリーグのペイント寸法(FIBA 4.9m×5.8m/NBA 16ft×19ft)に当てはめています。
3Pラインの外に青い点は1つもありません。 全データで検算すると、成功3Pがペイント内に混入する率は3リーグとも0.0%。B1についてはさらに、この座標判定とB.LEAGUE公式の「2Pインサイドペイント」分類が100%一致しています。
結果です。誤差の幅は、同じチームが何度も登場することを考慮してチーム単位のクラスタ・ブートストラップで計算しました。
この比較では、B1とユーロリーグは区別がつかず、EASLより吹かれ、NBAより35%多く吹かれている、という結論になります。
③で5.2%あったユーロリーグとの差は、誤差と区別できなくなりました(B1 557.9–600.9、ユーロリーグ 578.1–625.3で範囲が重なる)。攻め方の違いが、残りの差の正体だったということです。NBAとは範囲が大きく離れたままです。
チーム単位で4リーグ88チームを並べるとこうなります。
右に大きく離れてかたまっているのがNBAです。 ここが図のいちばん大事なところで、NBAは右に離れているだけで、高さは他と変わりません。
平均で見るとこうなります。
| ペイント試投/試合 | 守備ファウル/試合 | |
|---|---|---|
| ユーロリーグ | 31.2 | 18.76 |
| B1 | 31.5 | 18.23 |
| EASL | 32.6 | 17.40 |
| NBA | 42.7 | 18.28 |
NBAはB1より11本も多くペイントを攻めているのに、取られるファウルの数はB1とほぼ同じ(18.28対18.23)です。 攻めた回数で割れば、NBAだけが低くなります。それが④の数字(NBA 428.2/B1 579.4)の正体です。
B1・ユーロリーグ・EASLは左側の同じあたりに重なっています。
なお②と④は独立した証拠ではありません。4リーグともペイント内試投がポゼッションに占める割合が近いため、同じ方向に動く部分があります。
⑤ 終盤の意図的なファウルを外す
第4クォーター終盤は、負けているチームがわざとファウルをします。これがリーグ差を作っていないか確かめます。B1とNBAについて、第4クォーターを丸ごと除いて計算し直しました。
| 守備ファウル/ペイント千本 | 全体 | Q1〜Q3のみ |
|---|---|---|
| B1 | 579.4 | 553.8 |
| NBA | 428.2 | 407.4 |
| B1 / NBA | 1.353 | 1.359 |
比率はほとんど動きません。終盤のファウルゲームが原因ではない、という結論になります。 ユーロリーグとEASLは期別データが取れず、同じ処理ができていません。
⑥ 同じクラブを、国内と国際審判の下で比べる
ここまででペース・ファウルの種類・攻め方・終盤を揃えました。それでも残るのがチームの実力とスタイルの差です。これを消すには、同じチームを違う審判の下で見るのがいちばん確実です。
宇都宮ブレックス・アルバルク東京・琉球ゴールデンキングスは2025-26にEASLへ出場しました。EASLはFIBAとの独占契約下の国際大会で、FIBA公認の国際審判が笛を吹きます。
| ペイント内試投1,000本あたりのファウル | |
|---|---|
| B1(180チーム試合) | 621.45 ± 21.19 |
| EASL(25チーム試合) | 626.56 ± 57.70 |
この比較では、同じクラブが国際審判の下でプレーしても、吹かれる頻度は変わらない、という結論になります。 差は5.11で、検出できません。
この比較の価値は、選手構成とチームスタイルという最大の交絡要因を固定できる点にあります。ただし対戦相手も試合展開も違うので、「接触量が同じ」とまでは言えません。EASLは25チーム試合しかなく、差の95%範囲は概算で−9%〜+11%が残ります。
参考:審判によってどれくらい変わるか
意味4「試合によって基準が変わる」は、個人まで分離できないと書きました。ただし担当審判ごとの平均なら出せるので、参考値として載せます。
B1の全780試合には主審・副審3人の名前が記録されています。5試合以上を担当した85人について、担当試合の守備ファウル率を並べました。
右にいくほど、点が中央の線に吸い寄せられていきます。
| 担当試合数 | 人数 | 標準偏差 | 範囲 |
|---|---|---|---|
| 5〜14試合 | 21人 | 1.27 | 20.3 〜 25.1 |
| 15〜29試合 | 31人 | 0.73 | 22.3 〜 25.6 |
| 30試合以上 | 33人 | 0.61 | 23.0 〜 25.3 |
担当試合が少ない審判ほど散らばりが大きく、多い審判ほど平均に近づく。これは「審判の個性」ではなく「サンプルが少ないほど数字が振れる」という、偶然の形です。
20試合以上を担当した49人で分散を分解すると、こうなります。
| 値 | |
|---|---|
| 平均 | 23.89 守備ファウル/100ポゼ |
| 四分位範囲 | 23.48 〜 24.32 |
| 最小 〜 最大 | 22.32 〜 25.56 |
| 観測されたばらつき(標準偏差) | 0.665 |
| うち偶然で説明できる分 | 0.648 |
| 残る真のばらつき | 0.150(平均の0.6%) |
この比較では、審判が替わっても守備ファウル率はほとんど動かない、という結論になります。 見かけのばらつき0.665のうち、0.648までが偶然で説明できます。
ただし参考値です。 1試合に審判は3人いて、誰がどの判定をしたかは記録されていません。試合全体のファウル率を3人に割り当てているため、個人の癖は3人の平均に薄まって出ます。 対戦カードやホーム・アウェイも調整していません。言えるのは「担当審判ベースでは大きな差を確認できなかった」までです。
危険な接触への「格上げ」を見る
ここからは意味3、アンスポーツマンライクや退場への格上げです。吹く量ではなく、吹いたあとの判定の重さの話になります。
冒頭の説を最も具体的な形で言葉にしたのが、千葉ジェッツのジョン・パトリックHC(当時)です。2024年3月27日、宇都宮ブレックス戦のあとにこう話しました。
「3回連続でバスケというよりはラグビーのような試合でした。今日もまたケガがいくつか出て」
「肘とかバスケットの動きじゃないことがいっぱいありました」
「ヨーロッパでは…もう絶対、ディスクオリファイかアンスポーツマンライク。(Bリーグではそういうのが)いっぱいある気がします」
— 永塚和志 / BASKET COUNT
数えました。
この比較では、B1はユーロリーグの0.54倍、EASLの0.42倍しか格上げしていない、という結論になります。 範囲は重なりません。
ただしここから言えるのは「B1では宣告が少ない」までです。「危険なプレーへの判定が甘い」と言うには、危険な接触そのものが何回起きたかを知る必要があります。その数字はどのリーグも公開していません。判定基準の問題なのか、危険な接触の頻度の問題なのかは、今回のデータでは分離できません。
結論
Bリーグの笛は重くありません。
通常の守備接触に対してファウルを宣告する頻度は、ペース・ファウルの種類・攻め方を揃えると、ユーロリーグと区別がつきません(B1 579.4/ユーロリーグ 601.0、範囲は重なる)。EASLよりは8%多く、NBAよりは35%多く吹かれています。
そして同じB1クラブを国内と国際審判の下で比べても、吹かれる頻度は変わりませんでした(621.45対626.56)。
「Bリーグだけが通常の接触を極端に流している」という説は、支持されません。世界でいちばん流しているのはNBAです。
ただし、危険な接触への格上げだけは明確に少ない。 アンスポーツマンライクと退場の宣告は、ユーロリーグの0.54倍、EASLの0.42倍でした。通常のファウルを吹く量と、重い判定を出す頻度は、別のものとして扱う必要があります。 そして後者については、判定が甘いのか危険な接触が少ないのか、今回のデータでは決着しません。
この記事で測れていないこと
- 接触そのもの。回数も強さも記録がありません。ペイント内シュート試投は「攻撃機会」の代理であって接触数ではなく、「接触1回あたり」を測ってはいません
- シュート時の接触(意味2)。ユーロリーグとEASLのプレー・バイ・プレーにシューティングファウルの区別がありません
- 審判個人の効果(意味4)。1試合3人の審判のうち誰が吹いたかが記録されておらず、担当審判ベースの参考値までしか出せません
- 判定の正確さ。測ったのは量と種類だけです
- 格上げが少ない原因。判定基準か、危険な接触の頻度かを区別できません
- 「国際標準」の代表性。比較したのはユーロリーグとEASLの2大会だけです。ACB、BCL、FIBAの代表大会は見ていません
- 経年。B1のプレー・バイ・プレーは2025-26の1季分です
データと出典
- B1:B.LEAGUE公式 のゲーム詳細ページに埋め込まれたプレー・バイ・プレー全780試合+公式ボックススコア+ショット座標
- ユーロリーグ:EuroLeague Basketball公式 のPlayByPlay・Points・Boxscore 全380試合
- EASL:EASL公式スタッツ 全42試合
- NBA:ESPN のプレー・バイ・プレー。取得した1,235試合からオールスター4試合とNBAカップ決勝1試合を除いた1,230試合を使用。集計したファウル数は1チーム1試合あたり19.85で、ESPNのシーズン集計19.87と一致します
- 試投の記録規則:FIBA Statisticians' Manual 2024
- ファウル判定の原則:JBA プレーコーリング・ガイドライン
- 集計はすべて筆者によるものです